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求む、フォレスト・ヒーロー

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森林資源がゆたかな国、日本。わたしたちの暮らしは森で成り立っている

日本国内の森林面積は約2500万ヘクタール。国土面積に占める森林面積の割合を森林率といい、日本はその森林率が約70%。そう、日本は世界トップクラスの森林国。「森の家」なんていうと絵本のようなメルヘンチックな印象を抱いてしまいそうですが、意外と日本国民みんな森の中に住んでいるようなものと言えるのかもしれません。

そして、和歌山県もまた「木の国」という言葉が転じて「紀の国」と呼ばれるほど森林面積が広く、実に県土の約3/4にあたる約77%が山という森林県。全国7位の森林率を誇ります。それは森林資源が豊かであるとも言えますが、実情はうまく活用しきれずにいます。理由は急峻な山地が多く、手を入れるには作業や輸送のコストがかかりすぎることにあります。紀州材は住宅用の木材として強度や色合い、目合いの良さから重宝されているものの、流通が発達し、輸入材の需要が伸びてからは他の国産材と共に需要が落ち、さらに活用が難しくなりました。

とはいえ、森林の機能は材木にするだけではありません。むしろその大きな役割は、わたしたちの暮らしを作ることにあります。森と暮らしがどう結びくかというと、答えは森と水の関係にありました。

森には、優れた水源かん養機能がたくさん備わっています。まるでスポンジのように小さな隙間をたくさん備えた森林土壌は、雨を蓄え、ゆっくりと時間をかけて川へと送り出します。そのため例えば晴天が続いても渓流の水はすぐに枯渇することがありません。森林の土壌が雨水を浸透させる能力は草地の約2倍、裸地の約3倍にも及ぶため、洪水を緩和することにもつながっています。またゆっくりと運ばれる水は、地中を通るうちに濁りが少なく、適度なミネラル成分がバランスよく溶け出したおいしい水となります。水が美しく豊かと言われる日本。その所以は、豊かな森林に覆われているからこそ。山や森の恩恵で美しく豊かな水源を確保できているのです。

こういった貯留機能や水質浄化機能に加え、土砂災害防止、土壌保全や生態系の保全、大気浄化に気候緩和、さらには二酸化炭素吸収などによる地球温暖化防止まで、さまざまな面から森はわたしたち人の営みに豊かさをもたらしてくれています。

つまり、日本から森林が消えるということは、災害が増え、美しい水が手に入らなくなるということ。また気温は上昇し、空気も汚れ、心落ち着ける緑も見当たらなくなることも考えられます。今の暮らしを支える「当たり前」の環境が全てなくなってしまうことを思うと、森の大切さが身に染みます。

はるか昔からわたしたちの暮らしを守ってくれている山や森林。その恩恵をただ受けるだけでなく、しっかりと守り育てていくことがいまわたしたちに求められているのではないでしょうか。

森林は放っておけばいいわけじゃない。守るために切る

前述のように、日本、そして和歌山県には多くの森林があります。この森とわたしたちの生活のバランスをうまく保ち続けるためには、一体どうすればいいでしょうか?

自然のものは自然のまま、何もせず放っておくのが良い手段と考える人もいるかもしれません。ですが、決してそうではありません。自然林はともあれ、一度手を入れた自然は、常に手を入れ続けなければ生活の支えにはならないからです。

経済林としての需要が低くなったことで山に間伐などの管理が入らなくなり、一時期から日本の森林は荒廃が目立つようになりました。山が荒れるとどうなるか、想像してみてください。細い木が密集し、根を張らず倒れてしまう木がたくさん出てきます。こうなると地面まで光が届かなくなり、森の小さな生き物たちが活発に活動できなくなります。そして、森の持つさまざまな機能を発揮できず、台風の被害を受けたり、大雨による土砂災害を起こしやすくなります。もちろんそれ以前に、山自体の経済的な価値が低下し、同時に作業効率が落ちるという問題も、生活に直結します。そうして荒れた木々もそのうちにさまざまな細菌により朽ち、自然へと還っていくのですが、そこには人類の生きるスピードとは比べものにならない時間がかかります。いまわたしたちが受けている自然と暮らしを守り続けるためには、木を切り、経済林として活用していかなくてはなりません。

木を切るというと、どうしても頭に描きがちなのが「自然破壊」という言葉。ですが、伐採は決して自然破壊行為ではありません。森林を守るため、過剰な伐採を防いだり回復のために植えるという行為が必要なのは概ね海外の事情であり、日本とは異なります。むしろ森林放置こそが大きな環境問題。過去に人が植えた木を切るということ、これもまた1つの営みです。収穫期(主伐期)を迎えた木を切り、植えて、育て、そしてまた伐採する、このサイクルを円滑に回すことが健全な森づくりには必要。いま日本には、成長した森林を「活かす」時代が来ています。

現在手を加えている人口林は日本の森林全体の約半分。そして、和歌山県の場合は森林面積のほとんどが民有林で、そのうち人の手の入った人工林の面積は60.7%。中には管理をやめ、放置された森林も多くあります。災害防止や水源・水質確保の面での生活環境を守るためにも、これらに手を入れてあげること、また経済林として利活用することが必要とされています。

森とともに生きるために

国土の2/3が森林という屈指の森林大国であると同時に、世界有数の「木材輸入国」という矛盾を抱える日本。ですが、国内で消費される木材のうち、国産材の割合を示す「木材自給率」は平成14年の18.8%から着実に回復を見せ、平成30年には36.6%にまで回復してきました。コスト至上主義の時代から徐々に品質が見直されつつあるということかもしれません。ともあれ、国産材の需要はいま少しずつ上がりつつあるということ。そんないまだからこそ、フォレストワーカー(林業作業士)が求められています。

森はわたしたちを必要としていませんが、わたしたちには森が必要。その恩恵を使わせていただくには、当然わたしたちの努力は欠かせません。

私たちが山や森を守るためにいまやるべきことは、

  • 森林や林業のことをより多くの人に知ってもらうこと
  • 林業の担い手を増やすこと

そして、そのために

  • 経済林としての活用方法を考えていくこと

直接山に入るだけでなく、情報発信や求人、企画といった多岐にわたる行動から山を、ひいては暮らしを守ることが急務です。

最近では新たな担い手としてさまざまな人たちが名乗りを上げてくれています。年齢、性別、家族構成も出身地もそれぞれ違うものの、共通するのは山や自然が好きという想い。いわば彼らは、自然を守るフォレストワーカーならぬフォレストヒーローと言っても過言ではありません。

そんな山を守るフォレストヒーローとして、みんなの暮らしを守る仕事は、環境保全の最先端。また関わり方もそれぞれで、林業ベンチャーなど、新たな形での林業も始まっています。資源は豊富に揃い、活躍の場はそれこそ「山」のようにあります。だからこそヒーロー仲間はもっともっと必要ということ。

木の種類にもよるものの、一度伐採したところに新たな木を植え次に切るまで、山を育てる一連の周期は数十年単位と言われます。まさにいま、戦後に大量に植林された針葉樹が伐採の時期を迎えています。その資源をどう生かしていくか、考えるだけで面白いと思いませんか?