自然と共に生きる、林業という選択肢
林業に従事する人はかっこいい
フォレストワーカーの働く現場を訪ねると、澄みきった空気がおいしく、遮るもののない深い山の中。この大自然が職場かと考えると羨ましさすら感じます。
「林業」と聞くと、「木を切る仕事」というイメージが強いのではないでしょうか。もちろん間違ってはいませんが、それは林業の中の一部分。木を切るだけでなく、次の木を植え、育て、山を守るトータルな森林の保全を役割とする循環型産業です。
その仕事は大きく「林産」と「造林」に分かれ、その作業内容はまったく違ってきます。林産は山から木を切り出し、造林は、その後の山を育てる、読んで字のごとし「森林」を「造る」作業。事業体にもよるものの、その2つは作業内容も当然違えば稼働時間も変わってきます。
そこで今回、2人のフォレストワーカーにお会いして「現場」の話を伺いました。どちらもIターンで和歌山に来た移住者で、和歌山県農林大学校の卒業生。千葉出身の繁野秀樹さんは育林を中心に行う会社で造林を、神奈川出身の長峯雅志さんは、森林組合で林産事業に携わっています。
「造林」は、苗を植える作業を中心にした、山を育てる林業。準備段階として年が明けると山の斜面を植えられるようにする「地拵え」やシカなどに苗を食べられないようにする「ネット張り」が始まり、春に「植栽」。その後、気温が上がるにつれ雑草が元気になり、苗に日が当たらなくなるため「下草刈り」(約5〜6年間)を行い、秋になると木を間引く「除伐」(約7〜10年生)の作業に入ります。寒い地域では雪圧で倒れた幼齢木を起こし固定する「雪起こし」があったり、まさに林業の1年は木の1年とともにあるということがわかります。日の出と共に働き、夏場だと昼には仕事上がりという職人ならではの就業スタイルで、仕事終わりにはのんびり海沿いにドライブし、泳いだり、カフェ巡りを楽しんだりもすることもあるそうです。
【フォレストワーカーの1日:繁野さんのある日】
2:00 起床・朝食
3:30 車で現場に向かう
4:30 職場に集合、その日の作業の打ち合わせ
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5:00 作業開始
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8:00 昼食・1時間休憩
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9:00作業再開、適時に休憩を入れる
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12:00 作業終了、現場で解散
13: 00 帰宅・自由時間
18:00 就寝
「林産」は、造林後に育てた木を切り出してきて市場に出したりする仕事。昔は「切り旬」があり夏場の水気の多い時期には切らない習慣もあったものの、高性能機械を山に入れられるようになった今では年間通して切り出しているそうです。
事業体によるものの、このうち実際に木を切る作業は仕事のすべての工程のうちの1割程度。残りの部分は切った木を運び出す作業に当たります。山からの運び出し方は複数あり、重機を使うこともあれば、山にワイヤーを張って木を吊るして出す林業架線なども。架線を使う際には木を吊るす山側にいる人と山の下の渡場側にいる人との連携プレーが重要になってきます。
【フォレストワーカーの1日:長峯さんのある日】
5:30 起床・朝食
7:00 車で現場へ向かう
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08:00 現場に到着・作業前のミーティング
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8:30 作業開始、途中で休憩を挟みながら作業
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12:00 昼休みは1時間、仲間と弁当を食べながら楽しく過ごす。
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13:00 午後の作業、午後も途中で休憩します。
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17:00 作業終了、撤収(冬場は16:00くらいに上がります)
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18:00 帰宅して入用、夕食、あとは子どもと遊ぶ時間
23:00 就寝
2人とも、照れ臭そうに話してくれる休憩中の様子から一転、仕事を始めると表情が引き締まります。山の中でもわかりやすいようにとビビッドなカラーの作業着を身につけ、重いチェンソーを軽々と使いこなし、大型の機械を黙々と操る。その姿は文句なく「かっこいい」の言葉が似合います。
林業だって情報化。スマート林業の時代へ
昔から人々の暮らしとともにあった林業。その歴史の中で、ここ数年大きな変化が起こっています。それは、林業のICT化。人口減少や少子高齢化による就業者減といった課題を踏まえ、地理空間情報やICT等の先端技術を駆使し、生産性や安全性の飛躍的な向上と需要に応じた高度な木材生産を可能とする、いわゆる「スマート林業」です。
ドローンやレーザースキャ二ングによる3D測量など、最新のテクノロジーを駆使して森林管理を「可視化」することにより、安全面でもコスト面でも効率よく作業を進められるように。また地理情報をデータ化し、蓄積することで多角的な分析ができるようにもなります。県内でも既にドローンやGIS(地理情報システム)、その他のICT技術を積極的に取り入れる企業が増えてきました。
枝を払い、所定の長さに切り分けることができるスライド式のハーベスターなど、大型機械の導入は以前から進んでいましたが、さらに資材をドローンで現場まで運んだり、林業機械の自動化や遠隔操作化も進み、高性能林業機械が現場に入ることにより、体力に自信のない人など、あらゆる人に林業への道が切り拓かれてきています。
繁野さんは「今までは苗や資材を自分たちで背負って山に入ることが多かったんですが、ここ最近はドローンを使って植える場所の近くまで運べることになって、荷物は昼に食べる弁当ぐらいに。これだけ軽量化できれば、女性の方でもどんどんこの世界に入れるのではないかと期待しています」と話します。
もちろん、これにより現場で働く人が不要になるということではありません。職人の経験による知識や技術が活きる場面は当然まだまだ多く残っています。その中で、人では難しい場所への立ち入りや省力化しながら進められる部分での技術革新は今後の林業には欠かせません。全国的に広がりを見せる新しい形の林業、スマート林業が、今後どのように発展し、さらなる就労の可能性を広げてくれるのか。これもまたこれからの楽しみの1つです。
選択肢はいろいろ。個性に合わせられる林業スタイル
森林との関わり方はさまざま。フォレストワーカーになるといっても、民間の事業体(林業会社)で働く選択肢もあれば、森林組合のような団体への就職もあり、就業内容や形態もそれぞれ。どこかに所属するのではない個人事業主として働くという方法もあり、いろいろな就労の形があります。樹木医や森林セラピーに、 余裕があれば山主(山林所有者)となるという関わり方だって可能です。
森林所有者が組合員となる森林組合では、組合員の所有林の管理が主な仕事。森林整備、販売、加工、指導などの部門に分かれ、民間の事業体との付き合いも幅広いのが特徴です。そして民間の事業体には主に保有、または契約している森林で主伐や間伐、植栽を行う会社もあれば、主に製材加工、流通、測量、林道づくり、治山などを行う会社もあり、選択の幅は広くあります。
また最近は林業ベンチャーとして起業する人や自伐型林業が増えてきました。例えば、繁野さんが所属する「株式会社中川」も林業ベンチャーの1つ。植栽放棄地が多いことを逆にチャンスと捉え、植栽を中心にした「木を伐らない林業」をテーマに育林事業を推進する中川雅也さんが2016年に創業した会社です。「30年後の和歌山に緑を」を合言葉に、従業員と共に育林に力を注いでいます。
そして、いま「地方創生の鍵」と言われ全国に広がりつつあるのが、現行の林業の課題となっている採算性と環境保全を両立する新しい林業のスタイル「自伐型林業」です。言葉通り、山林所有者が自ら森林の整備を行うというもので、チェーンソーと小型重機、運搬用トラックだけで始められる低コストな林業として注目を集めています。
自伐型林業は全体の2割以下の間伐を繰り返すことで残った木を成長させ、次の間伐時に面積あたりの材積や材質をアップあせる「長伐期択伐施業」という展開方法を手法としています。一気に伐採してしまわないため、再造林回数も減り、森林の価値を高める環境保全型の林業と言えます。
UターンやIターン、田舎暮らしを考えるなら、これらのさまざまな林業の現場を見てみるのも1つの手。新たな人生の道すじが見えてくるかもしれません。