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山に入るその前に、再び学生になる選択肢

山に入るその前に、再び学生になる選択肢

1年で15の資格がとれる、林業のスペシャリスト養成校

林業、いいね。そう思った時にどんな行動をとればいいか、ご存知ですか。当然、山に行って「林業、はじめました」なんて、冷やし中華のように掲げればいいというものでもありません。「じゃあどうすればいいの?」という人にぜひ知ってもらいたいのが、平成29年に和歌山県に誕生した「和歌山県農林大学校」です。こちらは、林業を通して新たな価値を想像するとともに、第一線で活躍できる人材となるべくさまざまな知識と技能を習得できる山のスペシャリスト養成所。

 コースは林業経営コースとスキルアップコースの2つ。このうち林業経営コースでは、林業経営に必要な基本知識に加えて、経営分析、経営管理手法の習得を目指すと同時に、林産物の加工から流通までを体系的に学習する、新規就労希望者のためのコースです。座学には林業経験者や民間の専門講師陣があたり、実技研修では徹底した個別指導を実施。現場経験豊富な講師陣により、安全かつ効率的な現場作業について、リアルな体験談を交えて教えてもらえます。中にはドローンや高性能林業機械シミュレーター、森林3次元計測装置、傾斜伐倒練習機、風倒木処理練習機など、最先端の機材を体感するプログラムもあり、実は和歌山県農林大学校に備わっている傾斜伐倒練習機は全国の林業・農林大学校でも初導入の最新機材なんだそうです。

こうした数々の研修を重ねるうちに、いろんな資格を取得できるというのが林業大学校ならでは。なんと1年の間に伐木(チェーンソー)や高性能林業機械(伐木、簡易架線など)、フォークリフト運転技能など、林業の現場作業に必要不可欠な15の資格が追加費用なしで取得できるというから、研修プログラムの密度の高さが窺えます。

林業経営者コースの1期(1年間)あたりの定員は10人。少人数精鋭でみっちりと指導してもらえるため、着実な技術習得が叶います。さらに磨きたい知識や技術がある場合には、既に林業に従事している人を対象としたスキルアップコースも。特殊伐採などを安全に実施できる高度伐採技術や原木選別技術、林業架線技術者ど、それぞれの希望に応じた技術者育成研修があり、さらに2つの資格を取得できます。いきなりここを目指すのはもちろん時期尚早ですが、ひとたび何かに触れてみると、より奥深く関わりたくなるもの。その時にはこんなスキルアップの選択肢もスタンバイしています。

一人ひとりきめ細やかな就職指導で卒業後も安心

 和歌山県農林大学校は、林業専門の大学校とあって、県内の求人事業体に関する豊富な情報が集約しているのも大きな魅力です。また研修中、プログラムの一環として県内の複数林業事業体への2週間以上のインターンシップを実施。研修を通じて就業条件や職場環境の確認ができ、実際の作業や操作、人間関係を体験できるため、納得のいく職場選びが叶います。それだけだなく、学校に通う間に企業や組合との接点も多いことから、そこで生まれたつながりから就労先が決まるケースも多いそうです。他にも林業労働力確保センターのような社団法人との間を取り持ってくれるサポートもあり、多方面で卒業後の進路を考えることができます。

 現在、卒業生は森林組合や企業などに就職し、さまざまな林業現場の第一線で森林保全に努めるフォレストワーカーとして活躍しています。何かあると同期生や学校に相談できるのも学生の特権。1年間学校生活をともにしたからこそできた仲間の存在は大きく、就職先は違っても大きな目で見て共に森を守るかけがえのない仲間がいることは心強さにつながります。 

 そして、もちろん学校に通わなくても林業に従事することは可能。学校で学ばず、直接森林組合の現場職員に入ったり民間の林業会社に就職することもできるからです。とはいえ林業は危険も伴う仕事。現場に入る前にしっかりとした知識と技術を磨くことは、安全確保のためにもおすすめです。農林大学校では林業で最も恐るべき事故の未然防止を最重要項目として、最新の機材を用いて徹底した安全教育をしています。入学が前提でなくとも、まずはイベントや短期の研修で学校の雰囲気、また林業そのものを体験してみるのもいいかもしれません。

仲間、講師、そして…。学校ならではの、さまざまな出会いあり

 学生といっても社会人からの入学が多いため、10代から20代を中心に年齢も性別もさまざま。県外から入学するIターン、Uターン希望の人も多いそうで、神奈川県から入学した長峯さんもその1人。「意外と来てみたら同じ神奈川の人が多くて驚きました」と話すほど、遠方からの移住希望者も多いようです。当然これまでの職歴もさまざま。建設会社にいた人もいれば、音楽講師という異色の経歴の人も。故郷で仕事がしたいために林業を志した人や、デスクワークの毎日から山の仕事と田舎暮らしに挑みたいという人も少なくありません。そのため、入学前の林業への興味の度合いも人それぞれです。

 例えば、長峯さんはもともと林業を目的にしていなかったケースです。田舎暮らしをするために参加した移住相談会で農林大学校の林業研修部ができるというのを聞いたことがそもそものきっかけ。「これなら住むところも仕事もあって、ちゃんと生活の基盤をきちんと作れそうだな」と考え、思いきって飛び込んでみたとのこと。「正直それまでは林業はまったく考えておらず、自然豊かな山村でのんびり暮らしたいと思っていたので、将来的に農業のできるところを探していました。この農林大学校ができなかったら林業には就いてなかった」と長峯さん。入り口はそんな風に林業に向いていませんでしたが、結果的に今は満足しているそう。というのも、実は農林大学校で素敵な出会いもあったというのです。「もともと和歌山に来た時既に38歳。結婚も期待していなかったので、将来1人で暮らしていくことを考えて山村で好きなように生きようと和歌山に来たんですが、それがこう(結婚することに)なって、いまは1児のパパ。和歌山に来ていいことばかりです」と照れながらも嬉しそうに話してくれました。

 長峯さんのような出会いは珍しいかもしれませんが、共に学ぶ同期生や研修先、インターン先で出会う事業体の人たちとの出会いもまた貴重です。就職後、そのつながりが生きてくるシーンがきっとあるはずです。

 また、そうは言っても入学となると気になるのは費用面。学費の問題や1年間収入がないことをハードルに感じる人もいるかもしれません。ですが、その面では現状林業へのバックアップは手厚くなされています。研修期間中の生活費などは条件つきながら国の補助事業(緑の就業支援給付支援制度)で最大130万円の給付が受けられ、実際のところそう構えずとも入学できるというのが実情。またこちらも条件つきですが、チェーンソー用ユニフォームの購入費などについても県の補助事業(安全保護具購入支援事業補助金交付制度)が受けられます。それらの補助をもらいながら、森林組合などでアルバイトをしながら通うというケースも実際に多いのだそうです。学生寮はないため、自宅通学できない場合は近隣の賃貸住宅に入居しながらの通学になります。学校とバイトなんて、30代以上には懐かしくもやや甘酸っぱいワード。1年間、在りし日に立ち返った気分で、学生気分に浸ってみるのも悪くないのではないでしょうか。