山を育てる価値観を変えるー株式会社中川
林業が抱える課題のひとつ「皆伐跡地に木を植えない」
林業は営みです。山に木を植え、伐採して出荷することによって、収入を得ることを目的としています。1980年をピークに木材価格は下落し、林業は「儲からない」と言われるようになってしまいました。
その背景には、輸出材に押されたこと、木材需要が減っていること、伐採などのコストの改善が進まなかったこと、付加価値を付けてこなかったことなどが挙げられます。
それによって、経済的なメリットが感じられなくなり、山を管理する必要性を感じる場面が少なくなりました。木を切るだけ切り出したら、その後に木を植えずに放置されるケースが増えています。林業はビジネスではあるものの、収入がないからと言って放棄すれば環境を壊す原因となります。
しかし、そんな「儲からない林業」で業績を順調に伸ばし、どんどんと木を植えている企業があります。和歌山県田辺市に拠点をおく「株式会社中川」さんです。株式会社中川は「木を伐らない林業」というフレーズを掲げています。その印象的な言葉の裏にはどんな思いがあるのでしょうか。
山を所有する価値に別の視点を
「コストをバリューに変える」
中川さんは、「コスト(費用)」だと思われている山の管理を「バリュー(価値)」に変える活動をしています。
経済的な面だけ見るとメリットが少ない山の管理も、例えば「孫が喜ぶ」という理由があれば、しっかりと守っていこうと思えます。現に口コミで少しずつ山主さんから「山の管理をしてほしい」という依頼が増えているそう。山の別の価値を見出すことができれば、山を守ろうと考える人は増えます。
伐採を行う会社さんにはそれぞれ得意な現場があります。中川では伐採を行わず、それらの伐採を担当する会社さんをコーディネートすることで、品質を高め、コストを下げることができます。そのようにトータルでコーディネートすることで、山を持つ価値を高め、経済的なメリットを出すこともできるそう。
そして今後は、木材のブランド化も行っていき、経済面での改善も行っていくとのことです。
働きやすい環境も作り出す
株式会社中川の働き方はとても特徴的です。自分で働く時間や休みを柔軟に取ることができる仕組みをとっています。林業には少ないと思われる女性も何人も働いています。
創業者である中川雅也さんが、木を伐らない林業を始めたのは、お子さんとの会話がきっかけでした。当時、森林組合に勤めていた中川さん。お父さんと遊びたい一心のお子さんが「どうやったらお父さんの時間を買えるの?」と言いました。
その一言で中川さんは働き方を変えることを決意し、起業。ドローンを自社開発して作業負担を軽減したり、新しい社内制度を作ったりと、様々な人が働きやすい環境の整備にも積極的です。新しいチャレンジを行なっていく中川さんには日本全国から入社したいと人が集まってきます。
集まってきた新しい力で、さらに先の未来を作っていくことでしょう。株式会社中川が手がけていく「新しい林業の形」から目が離せません。