龍神の深い森で育んできた強い精神
深い森に包まれた龍神村
山の奥に車を走らせトンネルを抜けると、急に視界が開けます。尾根から見渡せるのは重なり続く険しい山々。どこまでも続きそうな山ひだの、そのほとんどが植林であることに驚きを隠すことはできません。
田辺市龍神村。
和歌山県の中心に位置する龍神村は、古くから林業が盛んな地域です。森の70%が人工林という豊富な森林資源は戦後に数多く植えられました。
深い森と共にある龍神村の龍神森林組合の組合長、眞砂佳明さんにお話をお伺いしてきました。
県下有数の龍神村森林組合
県下でも有数の林業地域である龍神村の林業を支える存在が、龍神村森林組合です。県内一の規模を誇り、90名ほどの方々が働いているそう。龍神村森林組合は、森林を管理・伐採するだけでなく、製材加工・木材共販所・道の駅の運営など幅広く行っています。
特に特徴的なのは「原木市場」。林業関係者や行政などが集まり、龍神の林業を考え、実践していく中で第一歩として行われたのが原木市場の開設。昭和46年に開設され、現在も毎月2回の市場が開かれています。
「原木市場」は「木材共販所」や「木材市場」とも呼ばれる、木材の生産業者から集めた原木を仕分けし、セリや入札によって販売する市場のこと。月に2回ほど開催し、龍神だけでなく、地域の木材を販売しています。
それ以前は龍神の木材は他の地域の市場で売られていました。その中で龍神の木材が「吉野材」として売られていたことがわかり、質の高さを感じたそうです。龍神の木は色がとてもきれいです。
その後、製材加工施設を整備したり、森林保全を見据えた事業を展開するなどして、地域・林業界全体を活性化する取り組みを行っています。
「林業立村」林業と村
龍神村の造林が始まったのは200年ほど前。当時は村民のほとんどが山林を所有していたそうです。昭和の初期ごろの不況で、多くの村民が山林を手放すことに。大水害の被害や、道路の整備により、仕事の仕方が変わっていきました。
その後大きく変化したのは昭和40年代ごろ。「林業立村」をスローガンに村が一丸となって様々な取り組みをはじめます。全国に先駆けて、村役場が林業課を設置したり、「林業開発会議」を組織したり、「苗木作りから住宅産業まで」を合言葉に、全国でも珍しいチャレンジを続けてきました。
平成に入り、木材価格が低迷し、木を山から切り出してもお金が残らない時代に突入しました。今までの森林経営では立ち行かなくなり、龍神村森林組合も例に漏れず経営が悪化します。それでも組織体制を見直し、大型機械を導入したりしながら、経営を立て直し、より良い森林作りを目指しています。
移住者が集まる村という顔も
山深い龍神地域ですが、近年の自然志向やライフスタイルの多様化により、移住者にも注目されている地域でもあります。龍神村森林組合にも「森に関る仕事がしたい」と多くの移住者が住まいをこちらに移し、仕事をしている方が何人もいらっしゃいます。
龍神村森林組合はベテランさんから、若い人、移住してきた人まで、一緒になって明るい雰囲気に包まれています。龍神にはお互いを知り、共に助け合うための風が流れているのを感じ、これからの龍神林業のあり方をずっと見ていきたいと思いました。