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小さなきっかけを、大きな人生の選択に

小さなきっかけを、大きな人生の選択に

和歌山県の中央東部に位置する田辺市龍神村。
標高500mを超える深い山々に囲まれた自然豊かな村で、200年以上前から林業が営まれてきました。この地域の林業を支えているのが、龍神村森林組合。戦後に多くの木が植えられた人工林で、お話を伺いました。

「今は皆伐作業をしています。ある程度の面積にある木を全部切って、架線で集材し、運び出しという作業です。これの繰り返しですね」
急斜面に植えられた杉の木を、実際に切って見せてくださったのは、加藤心太さん。26歳のときに林業の道に入り、今年で18年目です。

きっかけは父の「林業はどうか」という一言

「以前は別の仕事をしていました。退職し、これからなにをしようかというときに、以前父から「林業はどうか」と言われたことを思い出しました。体験講習に参加し、自分に向いている、と思い、林業の分野に進みました。木を倒すのがかっこいいとか、そういう憧れ的なものはなかったです。楽しいという以前に、「これは続けられるだろう」そんな印象でした。自分で山を歩いて木を切って。そういうことが合っていたんです」

「地名がかっこいい」と決めた龍神という場

神奈川県出身の加藤さん。和歌山県を選んだ経緯について伺いました。
「林業をやる場所は、正直どこでもよかったんですね。初めに各地の林業センターに「求人ないか」と問い合わせをしました。最初に返事があったのが和歌山県で、集団の就職説明会に参加しました。いろいろな団体があるなかで龍神を選んだのは、「龍神」という地名がかっこいいから。地図で見たとき、標高が高いから川が綺麗だろうとか、その程度の理由でした。
ただ、林業は山の中での仕事です。「ここで仕事をする=田舎で生活をする」ということ。地域の人たちと生活するということも考えておきました」

先を見据える想像力

危険との隣り合わせでもある林業の現場。普段から大切にされていることについて伺いました。
「自分のとった行動が、その後どういうふうになるかを常に想像していかないと、ちょっと怖いですね。例えば木を切った後、切った木がどう動くか。木を一本倒すだけでも、倒した木を枝打つにしても、打ったときにその木がどう動くか。何がどうなる、あれがこうなる、これが危険だ、あれが危険だと想像することを大切にしています。まず怪我をしない。去年ちょっと怪我したことがあったんで、それも身に染みています」

「もう十何年もやってますけど、まだまだ足りない部分というのは、いろいろ出てきてるとは思っています。細かいことを言えば、重機の操作や、木を倒すのがもっと上手になりたい。トラックへの積み込みにしても、もっと上手に積めるようになりたい。そういうところでは、まだまだ勉強せないかんかなと思います。
自分の切った木が商品になって、市場で売られてくっていうのはなんか楽しいですよね。自分で生産から運びだし、販売はまた別の方ですけど、そういうところまで見られるっていうのも面白いですね」

龍神の深い森の中、林業について、そして人生についてをお話してくださる加藤さんの姿がとても楽しそうでした。お父さんの「林業はどうか」という一言で林業の道に進んだこと。「龍神がかっこいいから」と場所を決めたこと。誰もが悩むような大きな決断を、風に乗るように軽やかにこなしてしまう加藤さんが、自然の中の方が合っていると思うことは納得がいきます。
小さなきっかけを、大きな人生の選択とする加藤さんの生き方を通して、自分はどう生きていきたいのか。ふとそんなことを考えるきっかけを与えてもらったような気がします。