
「ちょっとだけ経験してみよう」会社員の30年から、林業で第二の人生のチャレンジ
「紀伊半島最後の清流」と讃えられる日置川河口に位置する日置地区。清らかな水が古くから豊かな森林を育み、日置は林業の町として栄えてきました。「命の水を育む森づくり」を掲げ、森林整備を行う大辺路森林組合。ここで第二の人生として、林業を選んで4年目の吉田慎さんにお話を伺いました。
体を動かす仕事をしてみたかった
愛知県で人材派遣のお仕事をされていた吉田さんが和歌山県で林業に就いたのは、とてもシンプルで本質的な理由でした。
「コロナが流行り、仕事も少なくなっていた頃、前職でちょうど勤続30年を迎えました。30年経ったので、まぁとりあえず、なんか違うことをしてみようかと思いましてね。体が動くうちに、ちょっと体を動かすような仕事をしてみたいなと思っていました」
漁業や農業などの第一次産業に興味があったという吉田さん。林業のことはインターネットで少し見ていたくらいで、ほとんど何も知りませんでした。偶然、名古屋で開催されていた「森林(もり)の仕事ガイダンス」に参加し、林業に興味を持ったそうです。
「たまたま和歌山県のブースが空席で、手招きされたんです。実際にお話を聞いてみたところ、これはありだなと感じたんです。奥さんに相談すると、『いいよ』と言ってもらい(実際どう思っていたかはわからないですけどね(笑))一緒に和歌山県に移住することになりました」

しんどさで20kg痩せた最初の半年間
「自然の中で、鳥の声でも聞きながらゆったりとできる仕事」
林業に就く以前はこんなイメージを抱いていたという吉田さん。
「全然イメージと違いましたね。思っていた以上にしんどかったです。入って一か月くらいで音(ね)をあげそうになりました。慣れるまでが大変でした。まず、山を登るのがしんどい。ずっと這いずり回っていましたね」

傾斜が急で険しい和歌山県の山々。先輩が転がり落ちていくこともあったそうです。熟練でも足を踏み外してしまうような急斜面で、最初は自分がどんな角度で立っているのかも分からなかったほどでした。
「とりあえず3ヵ月頑張って、しんどかったらもうやめようと思っていました。でもだんだん体力もついてきて、3ヵ月経ったころには、そんなに苦痛でもなくなっていきました」
80kgあった体重が、半年間で60kgに。今はまた徐々に増えていっているそうです。
「しんどいというのも慣れちゃうんでしょうね。楽な体の動かし方を覚えて、みんなどんどん太っていくんですよ」
自分に合った仕事を、体が動く限りぼちぼちやっていきたい
現在は造林班、育林班という班で、主に間伐をされています。これまでに重機での作業も経験されてきました。
「重機はちょっと怖かったですね。苦手意識があり、できればやりたくないという思いはあります。僕のなかでは、チェーンソー一つでできるこの間伐が合ってるのかなと思っています」

伐採、造林、育林、搬出など、林業にはさまざまな作業があります。実際にやってみることで、自分の得意、不得意を知ることができ、自分自身が持っている力を最大限に発揮できるんだと感じました。
「最初は思うように木を切ることができませんでした。でも経験を積み重ねていくうちに、だんだん思ったところに木が倒せるようになってきています。自分は木を切ることが好きなんだな、と最近感じるようになりました」
バランスよく良い山になるよう、さらに上手に木を切れるようになりたいと話してくださった吉田さん。これから林業の道を目指す方にはまずはやってみてほしい、と考えているそうです。
「林業は思っている以上にしんどい仕事です。だけど体は勝手に慣れるもんですから。まずは3ヵ月。3ヵ月やってあかんなと思ったら、自分に合ったことを探したらいいだけです。とりあえずやってみるのもいいかもしれないですね」
長年慣れた土地や仕事を離れ、新しい環境と仕事に挑戦することは、なかなか勇気がいることだと思います。しかし吉田さんの話を聞くと、ちょっとだけ挑戦してみる、そんな選択肢もありなんだな、と感じてきます。
「林業の現場に見学に来てもらうことは、いつでもウェルカムです!」とのこと。
日置地区では、林業間伐の体験プログラムなども開催されています。林業の現場を実際に訪れ、「ちょっと」だけ体験してみてみることから始められそうです。
